2024年9月10日火曜日

バナナを診断? 医療を体験! MEdit授業

今年もMEdit Labの小倉加奈子先生と發知詩織先生(順天堂大学練馬病院)をお招きして、希望者対象の医療セミナーを実施しました。お二方は大学病院で病理医のお仕事をされています。また、順天堂大学医学部の学生さんや大学スタッフの方にもお力添えいただきました。午前中は中学生の部でした。

冒頭のご講義では、日本に病理医が危機的に少ないことについてもお話がありました。日本の現場の病理医の人数は、世界中のパンダの生息数と大差ない(2,000に少し足りないくらい)とか……。診断に慎重さを要するがんなどの最終診断という重責を担える人が、医療大国・日本でこれだけ不足しているとは驚きです。

病理診断をするのに知識を蓄えておくのは当たり前。現実の診断に当たっては、例えば異常なかたちの細胞のようすをどう感じ取れるかなど、五感の鋭さやイメージ力なども要求されるお仕事だというお話でした。お医者様を目指すとなるとついつい偏差値の話になりがちですが、職業に問われる資質というのはそれだけではない。講座で大切なことを実感してもらえたと思います。
どこまでが正常で、どこからが異常で、どこからが深刻な状態なのか? 実際にははっきりとした基準があるわけではなく、線引きが微妙な症例に頭を悩ませることもしばしば。そして、実際にその病理診断の難しさを体感できるワークが始まりました。


配られたのは、バナナの写真が並んだカードゲーム。青バナナから過熟で真っ黒になったバナナまで、コミュニケーションをとりながら順番に並べるというルールです。お互いがどのバナナを持っているか分からないまま、言葉で自分のバナナの熟した程度を言語化していくのは、かなり大変です。

小倉先生や發知先生からもらったヒントを生かして、「そばかすのような斑点が……」「スーパーなら20%引きのシールが貼られているくらいの黒さで……」とか、生徒たちも知恵を絞って熟し具合が伝わる表現を探し続けます。何に見立てるか、どう喩えるか。講義で「お医者さんには国語力が必要」とおっしゃっていた意味が、ゲームを通して身に染みます。また、そもそもどこから熟しすぎなの? といった基準のつけようのなさは、まさに病理診断の線引きの難しさそのものなのでした。

午後の高校生の部は、問診体験です。といってもさすがに病気の問診はできませんから、先生方が患者役になって、お悩みをきいてあげるというワークになりました。いつも相談に乗ってくれる先生から相談されるという体験。各チームには医学生の付き添いもありました。いざスタートとなっても、最初はなかなか適切な質問が思い浮かびません。信頼を築くコミュニケーションは、適切な問いを立てるところから始まるのですね。授業でも試験でも、答える側に回り続けていると、ちょっと気づきづらい視点かもしれません。応接の接ぎ穂がなくなった都度、医学生の方のアドバイスが差し出され、徐々に問診がスムーズになっていきます。

「初対面の人相手だと、未だに緊張しちゃうんです」「この年になっても、まだ女心というものが分からなくて……」先生方も、わりと率直に患者役を演じてくださいました。この記事を書いている私は「プレゼントをするのが苦手で……」という相談をしましたが、プレゼント好きの女子生徒が、大変参考になるアドバイスをたくさんくれました。生徒から教われることはやはりたくさんあるなと感じ入るひとこまでした。本当に、助かった。

カルテの型は「SOAP」。S:主観的情報、O:客観的情報、A:評価、P:計画の四つの要素で組み立てるのが基本なんだそうです。各班ごとにこれにのっとって、カルテの発表をしました。鋭い観察の光る班、意外な専門知識を駆使する班、病名の付け方が冴えている班、成果にも個性がよく出ていました。

医学生のみなさんの受験体験などもうかがって、閉会後も熱心にみなさんとお話しする生徒が何人もいました。今回参加のみなさんは、医学部進学希望者が中心だったと思いますが、そうでなくてもたくさんの学びがある講座でした。来年度以降もお呼びできる見込みですので、多くの生徒さんが続いてくれればと思います。